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田中ゲンショウ

genshow tanaka

Photo / Mihoko Ishiguro

Interview / Mayu Motoike

blue tonicでもっとも若く、高校時代はファンとしてルースターズを観ていた。リスペクトする井上富雄はもちろん、周りの人々を思い、肯定し、縁を大切にし、経営するBARは人と人をつなぐ“ハブ”になっている。そんな「ゲンショウと桃太郎たち」。

 

01

■みなさん、同じ質問からはじめさせていただこうと思っています。26年前の4月29日、解散ライヴの日のこと、覚えていますか?

ほぼ覚えてないね。みんな覚えてる気がしてるだろうけど、多分それは間違ってたり思い出補正されてると思うよ。俺はそう。たまにライヴ盤を聴いたときに“ああ、これ演ったなあ” “こんなだったなあ”って思うぐらいよ。

 

■記憶が真っ白になった特別な日だった、とか?

そんなドラマチックなこと、俺が考えるわけないでしょ(笑)。遠い過去っていうのは、そういうものになるってことよ。そうそう、リハにあなたが来て「わー、いい感じですね、なんで解散するんですか!?」的なこと言ったのは覚えてるよ。

 

■…それ、わたしが覚えていません。

そうなの? マッドスタジオ、六本木の坂を下りた。それを覚えてるのはさ、メンバーの中にもそういう感じがあったからなんだよ。“おいおい、いつもと違わね?” “いま俺ら良いんじゃないの?”って。

 

■昔のこととはいえ失礼しました。解散する方々に、なんで? とは言わないですよね。

いやいや、でも俺はバンドの解散なんて初めてだったから。そういうものなのかなって思ったよ。勿体ないと思ってくれる人もいないと淋しいでしょう(笑)。それにまあ、当時バンドやってる20代の男子なんて、根拠のない自信はあるわけ。だから平気よ。残念とかより、それぞれが“俺はこれからもっと行くぜ”ぐらいに思ってたと思うよ。実際みんなその後、立派に音楽界で稼ぐようになったしさ。俺以外は。

 

■“俺も”ですよ。今も引っ張りだこだし、なによりパーマネントなバンドを長く続けていらっしゃいます。

いや、バンドの立ち位置が違うよね。例えばスリルなんて、何十人もいれば…っていうか人数もよく把握してない時点でアレですが、バンドを続けていく上での役割とかストレスも人数割りで少なくてすむんですよ。あ、ギャラも人数割りだけど(笑)。ホフディランはね、まあ田舎に帰って汗水たらして働かなくて、東京でおもしろおかしく暮らしていけるのは、あのバンドのおかげなんで。ほんとに感謝してますよ。どこも辞めずにすんでてラッキー。やっぱバンドに限らないけど、彼女とかもそうで“別れるのも面倒くさいわ”っていうのあるじゃん。気力体力を使うのイヤでしょ?

 

■じゃあblue tonicのときは体力要りましたね。

ううん、あのとき俺は何も言ってないから。嫌も続けたいも。先輩方の意見に従ったよね。…てか思うんだけどさ、一人でも解散したいって思う奴がいたらモチベーションあがらなくない? というか、メインの人間の意志かな。blue tonicで言うと井上富雄が「辞める」つったら辞めるし、「俺は続ける」つったら着いていくよ。俺はそういう気持ちだったね。

 

 

02

■ゲンショウさんが、音楽の世界に入るきっかけになったblue tonic。どんなバンドでしたか?

高校のバンドとか以外で、はじめてのちゃんとやったバンドだったからね。“こういうものなんだ!?”って思うことだらけだったよ。プロにもなったし新鮮だった……や…っていうかさ。

 

■え……?

こっちはね、高校のときにライヴを観にいって“うああー!”とか言ってた人と、一緒にバンドをやったわけですよ。そういうことです。

 

■憧れて“うああー”となっていた人が、同僚/同じバンドのメンバーになっていく過程。想像もつきません。

そういう思いは、いまだに変わんないけどね。“あのバンドの人か…”って。

 

■ほ、ほんとに?

そりゃないか(笑)。でも正直な話、やっぱりリスペクト感はあるよ。今でも、一緒に出来ることが嬉しいですよ。

 

■その話を伺うと、井上さんと一緒にできるゲンショウさんも幸せですが、こんな身近なメンバーに今もそう思い続けられている井上さんもお幸せですね。

あれだけ実績がある人なんだから、当たり前だよね。それにバンドなんて、リスペクトしてないと出来ないもんなんじゃないの? 特にバックっぽい人は、ボーカリストなり作曲者をリスペクトしないとやんないでしょ。

 

■冷牟田さんや木原さんのことは、どんな風に見ていらしたんですか?

冷牟田くんも龍太郎くんも、高校生のときからバンドをやってる仲間だから。井上富雄とはまったく違うね。

 

■お二人とも、ゲンショウさんより年上ですよね。

なんだけど、俺が学校外ではじめて組んだバンドがニューズってので(笑)、龍太郎くんがギターだったのよ。それと、しょっちゅう対バンしてたのが冷牟田くんで。田舎のときからの、お互い知り尽くした“戦友”っていう感じかな。

 

■高校時代からの友達と、今もこうしてやっている。

まさかだよね(笑)。でも、そんな風に考えてノスタルジーに浸りたくはないけどさ。

 

■ゲンショウさんは、自分の感情にどっぷり浸ることを避けるきらいがありませんか? 今のノスタルジーもそうですし、自意識とか愛情とか。

ノスタルジーは消極的な気がするからね。自意識とかは、どうだろう。俺は降りてるんだよ、他人の目とか人間関係を気にすることから。20歳とか30歳とかの頃、自分が他人にどう思われたいかすごく気にする人って多かったでしょう? でもそういう人の大半が50歳になると「まあまあ、どうでもいいじゃない」って変化していくよね。そういうアレが、俺にはずっとなんじゃないの? 若くないのよ。

 

■じゅうぶんお若いですけどね!

なに言ってんの、ぜったい龍太郎くんの方が若いよ。彼は一生降りないよ、あれは凄い。まあ、本人は「おまえに言われたくねーよ」って終わるだろうけど(笑)。

 

■返答に困りますよ。

長い付きあいっていうのも不思議だなって話ですよ。

 

 

03

■はじめての本格的なバンドblue tonic、そしてその後の25年。どうつながっていきましたか?

まあ、blue tonicの俺はダメだったね。あの頃って誰でもデビューモードだったしさ、未熟だったよ。演奏もそうだし、表現力という意味でも。“人から金もらっていいのか?”って、自分のことは思ってたね。…つったら、今はお金もらえるレベルなのか? って話になるかもしんないけど(笑)。

 

■いやいや、何を(笑)。

だからバンドの話じゃないよ? 俺ね、俺。ぶっちゃけblue tonicに何も貢献してなかったから。ドラムが他の人だったらもっとよかったのに、って思ったこともある。

 

■ゲンショウさんのドラムを、そんな風に思ったこと一度もないです。

まあ俺が叩いてるのしか観てないからね。だけど音楽的に、blue tonicはリズムが大事なバンドだったと思うから。そのへんも解散の原因だったでしょ。俺がもっと井上富雄がやろうとしてることを表現できてたら、解散もなかったかもしれないよね。それなのにさ、ヘンな話なんだけど。blue tonicって名前は、ありがたいものになってくれたのよ。

 

■ん? どういう意味ですか?

blue tonicは演奏も下手だし売れてもいないし評価されてもいないのに、なぜか、後の音楽活動で「元blue tonic」っていうと「おお!」って言われて。それは、ほんとラッキーだなって思うよ(笑)。なんなの、それって?

■カッコよかったし、新しかったし、いいバンドだったからです。

じゃあさ、それが判ってない俺ってなんなのよ(笑)?

 

■もう、謙虚すぎるんですよ! 目指すハードルが高いのか自己評価が低いのか、逆に驚きます。

世の中の人も、そう思ってくれてたのかもね。だから「おお!」って言ってくれんだろうけどさ。でもさ、売れてなかったってのは大きくない(笑)?

 

■誰も知らない伝説になったの?

そう、絶対あるよ! みんな観てないから伝説にしてんの。そのラッキーだけで25年間やってこれた(笑)。

 

■まったく(笑)、もうすこし傲慢になってください。

いやだけどさ、再結成のときしゅーんとならなかった? ほんとに伝説ならさ、もうちょっと盛り上がって人が来てくれてもいいのに、って。

 

■それは実務的な話ですよ。blue tonicが解散したときはメールもなかった時代で、当時の事務所がなくなったからデータもない。聴いていた人達は忙しい盛りで、ネットをよく見てないと再結成も知れないですよね?

そういうもんなの?

 

■てゆーか、誰一人しゅーんとしてない(笑)。情報が伝わってないなら伝えればいいし、伝説をつなげたいなら良いライヴをたくさん観せましょうよ!

それぐらい前向きにいかないとなのかー(笑)。

 

 

04

俺さ、思うんだけど、再結成とか言わなくてもいいんじゃないの? ふつうに新バンド組みました、たまたま面子が井上富雄と冷牟田竜之と木原龍太郎です、みたいなのでよくない?

 

■井上さんもBlogに書いていらっしゃいましたね。再始動というよりは新しいバンドをはじめた気分、って。

そうなの? 読んでないよ、それ。

 

■読んでないのに同じことを…! 今のblue tonicの空気なんでしょうね。

でも、それでいいんだよ。新たにこの音楽を聴いて、新しく好きになる人が出てきてくれるなら嬉しいね。俺はお客さん入んなくても、一からはじめる覚悟あるからさ。まあ、他のメンバーがどう思ってるかは知んないよ? ただ、あの頃のblue tonicは、売れなきゃってプレッシャーがあったじゃない。でも、今回はそんなことを考えなくっていい状況なんだよ。レコード会社がないのもラッキーかもよ? ふつうに四人で集まって、演りたいことを演っていけるじゃん。

 

■うんうん。それを観たいし聴きたいです。

だからGardenが大きいなら、小さいところで対バンと演ってもいいしね。そういう気持ち。花田裕之の“流れ”みたいなもんですよ(笑)。大きなところで演って人を集めるのに慌てるなら、小さくっていい。ただ、四人が納得して充実するカッコいい音楽をやれたらいいじゃないの? ぶっちゃけ俺は今、もう新しいドラムの仕事をぜんぶ断ってるのよ。今やってるので手いっぱいっていうのもあるけど、ほんとに手いっぱいかと言えば野球する時間とかバリバリあんじゃん(笑)。知らない人とお金稼ぎのためにやるのはもういい、好きな人とだけ楽しくやりたいのよ。

 

■新しい仕事はしたくないゲンショウさんが、2012年に井上さんから「blue tonicも演る新しいバンドを始めたい」ってBarrier Gates誘われたときも、2013年のblue tonic再結成も、二つ返事で始められました。

そりゃそうでしょ。いちばん尊敬する音楽家に誘われたら、そりゃ喜んでやりますよ。それだけの話だよ。でもね、新鮮だったよー!

 

■blue tonicの曲が?

もあるけど、Barrier Gatesで井上富雄はベースだからね!? 俺さ、ベースの井上富雄と一回もやったことなかったのよ。それも凄くない?

 

■たしかに。どこかで一緒になってても、不思議じゃなかったですよね。初の、井上富雄&田中ゲンショウのリズム隊!

もうblue tonicとは別物だよ。

 

■そういう見方をしたことなかったです。

でさ、俺そのとき、“どっかでblue tonicに繋がっていくな”という予感がしてね。

 

■まだ井上さんが考えてもいらっしゃらないときに?

本人にそういうつもりがないのは知ってたよ? でもね、桃太郎のきびだんごみたいなもんでさ。

 

■(笑)まず、イヌのゲンショウさんがついて行きました。あとは、サルとキジもついて来るだろう、って?

もので釣ってるみたいで良くないけど(笑)、まあサイボーグ009でもいいよ。物語が見えたね。

 

 

05

俺ね、TOMATOSやってたじゃない? 本当に影響を受けてお世話になって、ドラム的にも勉強になって。あっこは“もう一回ぐらいやんないかな、もっと頑張るのにな”って思ってた。そしたら、松永さんが亡くなって。それからも周りで色んな人が逝って、宮田さんのこともあったじゃない。

 

■本当ですね。わたしも、人生、会えるときに会っておかなくてはと日々思っています

でしょ? そこで石飛(元マネージャー)の死亡ですよ!

 

■…お、お元気になられましたから!

事実上はね(笑)。メンバーの誰が死ぬとか考えもしなかったけど、blue tonicやっとかなきゃいけないなって思うよね。そりゃ。

 

■そういう意味でも、四人全員がお元気で、音楽を生業にしていらして、疎遠になっていなくて。そこも、blue tonicの奇跡の一つだと思います。

ですな。

 

■疎遠にならなかったのは、ゲンショウさんの功績大だと思いますよ。井上さんは「ゲンショウがBARを開いて、ハブのようになってる」とおっしゃっていました。

どうですかね? ありがたいことに、色んな人が来てくれるだけだよ。こっちが感謝してますよ。

 

 

06

■再結成以降のblue tonic、来週4月29日に迫ったライヴ。両方への、お気持ちを聞かせてください。

やっぱりね、最初に組んだバンドがその人のバンド……代表バンドになるわけじゃない。だから、“ああ、戻ってきたな”ぐらいには思ってるよ。

 

■軽く言われたのでしょうが、待っていた人にはたまらない言葉。

それ風に言うなら“やっと、この4ピースが揃ったな”とか。そういうのが聞きたいの(笑)?

 

■いいえ(笑)、聞きたいのは本心です。

他のメンバーは判んないけど、俺に関しては、そういう意味では周りが思うほどの感慨はないよ。そりゃ嬉しいしね、ライヴはほんとに楽しみだよ。けど、きっと感慨はさ、俺らなんかよりも、解散後にblue tonicを好きになっていつか観たいと思ってくれてた人や、80年代からずっと待っててくれてた人の中にあんじゃないの? この25年に俺がblue tonicの曲を聴いた回数より、そういう人達が聴いてくれてる方が確実に多いもんね。まあ多分、クオリティは80年代よりも上がってるから。こっちとしては、自分達も楽しむだろうし、それで来てくれた人も楽しんでくれるといいな、って。もうね、それだけだよ。

 

 

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